東京地方裁判所 平成12年(レ)68号 判決
主文
一 原判決中、控訴人に対し、被控訴人前田幸子に金二九万六〇一三円及びこれに対する平成一〇年八月二六日から支払済みまでの年五分の割合による金員を超えて金員の支払を命じた部分並びに被控訴人宇田川秀男に金二九万四九九一円及びこれに対する平成一〇年八月二六日から支払済みまでの年五分の割合による金員を超えて金員の支払を命じた部分を取り消す。
二 右取消しに係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
三 その余の本件控訴をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。
事実
第一申立て
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
第二事案の概要
本件は、控訴人から繰り返し金員の貸付けを受けて弁済をしてきた被控訴人らが、控訴人に対し、利息制限法の定める利率を超えて支払った利息・損害金を元本に充当計算した上、不当利得を理由として過払金の返還を求めている事案である。
一 争いのない事実等
1 被控訴人前田幸子(以下「被控訴人前田」という。)は、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)上の貸金業者である控訴人から、平成二年九月六日、金一〇万円の貸付けを受けたのを初回として、原判決別紙第一(一)の年月日欄、同借入金額欄記載のとおり、合計一〇回にわたり、貸金業法一七条一項に定められた書面の交付を受けて金員の貸付け(利息・損害金は、原判決別紙第一(一)の左端の番号一、一一の貸付けにつき年五四・七五パーセント、同番号二五、三九、五四、七〇、七八、八七の貸付けにつき年四〇・〇〇四パーセント、同番号一〇一、一〇九の貸付けにつき年三九・七八五パーセント。利息は一年を三六五日とする日割り計算で、弁済日の前日までの分を円未満は切捨てで支払う。)を受け、また、控訴人に対し、元本・利息等の弁済として、原判決別紙第一(一)の年月日欄、同弁済額欄記載のとおり任意の支払をした。
2 被控訴人宇田川秀男(以下「被控訴人宇田川」という。)は、貸金業法上の貸金業者である控訴人から、平成二年五月一一日、金一〇万円の貸付けを受けたのを初回として、原判決別紙第一(二)の年月日欄、同借入金額欄記載のとおり、合計一三回にわたり、貸金業法一七条一項に定められた書面の交付を受けて金員の貸付け(利息・損害金は、原判決別紙第一(二)の左端の番号一、一〇、一八の貸付けにつき年五四・七五パーセント、同番号二七、三六、四四、五六、六五、七六、八四、九三、一〇二の貸付けにつき年四〇・〇〇四パーセント、同番号一一一の貸付けにつき年三九・七八五パーセント。利息は一年を三六五日とする日割り計算で、弁済日の前日までの分を円未満は切捨てで支払う。)を受け、また、控訴人に対し、元本・利息等の弁済として、別紙第一(二)の年月日欄、同弁済額欄記載のとおり任意の支払をした。
3 被控訴人前田は、原判決別紙第一(一)の左端の番号九、一〇、二三、二四、三七、三八、五二、五三、六八、六九、七六、七七、八一、八五、八六、九四、九六、九九、一〇〇、一〇二、一〇三、一〇五、一〇七、一〇八、一一〇、一一一の各弁済額欄記載の支払について、被控訴人宇田川は、原判決別紙第一(二)の左端の番号八、九、一六、一七、二五、二六、三四、三五、四二、四三、五二、五四、五五、六三、六四、七四、七五、八〇、八二、八三、九一、九二、一〇〇、一〇一、一〇九、一一〇の各弁済額欄記載の支払について、控訴人から、貸金業法一八条一項に定められた受取証書(以下「受取証書」という。)の交付を受けた(乙第五号証の1-1ないし10-3、乙第六号証の1-1ないし第六号証の13)。
二 争点
借換えの法的性質
(控訴人の主張)
1 旧貸付けについて過払があり債権者に不当利得が生じている場合に借換えがされると、債務者の債権者に対する過払金の返還請求権と債権者の債務者に対する新たな貸付金の返還請求権とが併存する。そして、そのように対立する二つの債権が相殺適状となった場合であっても、相殺の意思表示前に一方の債権について弁済があったときは、その時点で当該債務は弁済により消滅するのであり、その後に相殺の意思表示がされても弁済による債務消滅の効果を覆すことはできない。
2 本件においては、新たな各貸付けの時点では、被控訴人らから相殺の意思表示はされていない。したがって、被控訴人らの相殺の意思表示は、本件訴状提出の時点でされたものと見るほかないから、被控訴人らは、旧貸付けに係る不当利得返還請求権を自働債権とし、訴状提出の時点で残存している最終の貸付けにおける貸金債権を受働債権として対当額で相殺をすることができるにすぎない。
そこで、被控訴人らが受取証書の交付を受けていない弁済につき貸金業法四三条一項のみなし弁済の規定が適用されないとしても、過払金は、被控訴人前田については原判決別紙第二(一)記載のとおり金五万七〇七八円にすぎず、被控訴人宇田川については原判決別紙第二(二)記載のとおり金六万〇四六九円にすぎない。
(被控訴人らの主張)
借換えは、法律的に有効な旧債務の残額と新規現金交付額との合計額を元本とする新しい貸付契約が締結されたものと解されるので、借換えの際には、弁済を前提とするみなし弁済は問題とならず、また相殺も問題とならない。
第三証拠
本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四争点に対する判断
1(一) 金員の貸付けを受けた者が、元本、利息等を完済する前に、債権者から新たに旧債務の額を超える金員の貸付けを受け、それによって旧債務を弁済する旨の合意をした上、新たな貸付けの額から旧債務の残元本、未払利息等に相当する額を差し引いて残金の交付を受ける、いわゆる借換えは、債務者が新たな信用を得るとともに、新旧両債務を併存させることなく二つの債権債務関係を一本化しようとするものであると解されるので、これによって、法的に有効な旧債務の残額に債務者が現実に交付を受けた額を加えた合計額についての準消費貸借契約が成立したものと見るのが相当である。
(二) もっとも、借換えの時までに既に過払となっており、債務者が債権者に対して過払金について不当利得返還請求権を有するに至っている場合には、法的に有効な旧債務は存在しないから、そのような借換えについては準消費貸借契約と見ることはできず、過払金の返還請求権と現実に交付した新たな貸金の返還請求権とが対立併存するに至ったと解する余地がないではない。
しかし、右のように旧債務について過払金が生じている場合であっても、借換えをした当事者は、旧債務の貸借関係を清算することをも目的として新たな消費貸借契約を締結したものと認められるから、当事者は、旧貸付けについて貸主から借主に返還すべき過払金があるときは、それを清算する趣旨で新たな貸付金を交付したものと解するのが相当である。したがって、過払金の生じている旧債務について借換えがされた場合には、準消費貸借契約が締結されたものと見ることはできないが、新たな貸付金として借主に交付された金員のうち旧貸付けにおける過払額に達するまでの金員は、旧債務の過払金の返還として借主に交付され、その残金が新たな貸付けの元金として交付されたものと解すべきことになる。
2(一) これを本件についてみると、控訴人の被控訴人らに対する各貸付けは、初回を除き、すべて被控訴人らが残債務を支払うと同時に控訴人から新たな貸付けを受けるという形式でされた借換えであり、その法的性質は、借換え時の旧債務の残額の有無により、準消費貸借契約を締結し、又は不当利得金の清算と新たな消費貸借契約を締結したものと認められる。
(二) そして、前記争いのない事実等において記載したもの以外に、控訴人が、被控訴人らに対して受取証書を交付した事実を認めるに足りる証拠はない(乙第二号証の1によれば、平成三年一月四日に被控訴人前田が控訴人に対して一万二四〇〇円を持参弁済していることは認められるが、その際、受取証書の交付があれば、当然控訴人の手元には前田の受領署名がある同日付の領収書兼残高確認書が残っているはずであるところ、右書面は証拠として提出されておらず、未提出の理由としては古い貸付けに関する書類で探索することが難しいという以上に合理的な説明がないことに照らすと、同日に受取証書の交付があったと推認することはできず、他に交付の事実を認めるに足りる証拠はない。)。
なお、借換えに際して受取証書が交付されていても、その時に旧債務の弁済がされたものと認めることはできないから、貸金業法のみなし弁済の規定を適用する余地はない。
第五結論
一 以上判示したところを前提として、被控訴人らの控訴人に対する支払を、利息制限法の定める利率(受取証書の交付がある場合については約定の利率)により充当計算をすると、別紙修正計算表(前田分)及び同表(宇田川分)のとおりとなり、被控訴人前田につき金二九万六〇一三円、被控訴人宇田川につき金二九万四九九一円が過払となっているので、被控訴人らは、控訴人に対して、それぞれ、右過払による不当利得金の返還とこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成一〇年八月二六日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができることになる。
二 よって、原判決は、右一において判示したところと抵触する限度で相当ではないから、これを変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条、六四条ただし書きを適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 一木文智 裁判官 日比野幹)